冒頭のシーン。画角が演劇的だなぁ…と思ったら、映画を撮っているロケ地の邸宅。最初と最後のシーンを撮った後、主演俳優が失踪し、作品はお蔵入り
監督のミゲルは2作目にして未完のまま引退。海辺の破屋に停めたキャンピングカーに隠遁している
糊口をしのぐため、出演料や映像使用料の契約をして、人気番組『未解決事件』のインタビューに出演をする
失踪した俳優の名はフリオ。ミゲルの親友だが、酒癖女癖が悪く。不倫の上、崖から身を投げたとされ、捜索されたが遺体は上がらなかった
ミゲルは、フリオは意図的に自分の存在を消したのでは?と疑い始める
番組を観た介護士から、似た人が施設にいると報せが入る
彼は入所者ではなく、住み込み作業員をしていた。しかし、過度の飲酒の影響か、脳を損傷し記憶を失っていた。それでも撮影で使った写真を持ち、水兵の頃の、もやい結びを手が憶えていた
終盤が近づくほど、それまでの、言葉が歌が、波音が去来して胸がざわつく
フリオだけでなく、すべての関係者が、あの時のあの場所に、人生を置き忘れたまま、幾歳月を重ねてしまったのかもしれない
後味のよい余韻の、含蓄のある作品だった
フリオの娘のアナ役は、この作品のビクトル・エリセ監督の作品『ミツバチのささやき』(1973)の主人公アナ役のアナ・トレントさんなんだそうだ。半世紀越しの出演なのね