秘密結社鷹の爪の垢団

TOHOシネマズをホームグラウンドに映画を年に100本以上観まくります。

縁の縒り糸『君を愛したひとりの僕へ』『僕が愛した全ての君へ』☆☆+ 2024年第202/203作目


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『君愛』

パラレルワールドの実在が、ある程度、認知された世界。その分野の研究室、虚質科学研究所では、比較的近くのパラレルワールドと行き来するオプショナルシフトを実用化しつつあった。暦の父は、そこの研究員で、離婚し暦は母と暮らしていた。研究所の所長の娘の栞と仲良くしていたが、二人の親同士が再婚しようとしていることから、研究所のIPカプセルに二人で入って、二人の両親が離婚していない世界にシフトしようとする

お互いに落ち合う場所を申し合わせてシフトするが、栞はシフト直後に交通事故にあってしまう。肉体と虚質が分離してしまい交差点に縛られてしまった幽霊のような存在になる栞

暦は高校を卒業すると研究所に入所して、栞の虚質をサルベージする研究を重ねる。そこに、虚質科学研究で博士号を取った和音が仲間に加わる。彼女は高校時代、常に首席を暦に取られ、勝手にライバル視している秀才だった

二人は共に研究重ね、遂に栞の虚質をサルベージして、事故にあわない世界線にタイムシフトする理論を見つける。しかし、それを実行することは、こちらの世界では暦は脳死になり、向こうの世界では、栞も暦も互いを知らず出会うことがないという

やがて、年を取り、余命幾ばくもなくなった暦は、和音にお願いしてカプセルを起動して、計画を実行に移す。暦はタイムシフトの前に、交差点の栞に、60年後に、この交差点で再会する約束をする


『僕愛』

年老いた暦は、手首のIP端末に、身に覚えのないスケジュールを見つける。妻の和音に見送られ、約束の交差点に車椅子で向かう。白いワンピースの少女に手を伸ばすと、少女は消え、端末がエラーになる。虚質科学研究者でもある暦は「オプショナルシフトしたのか?」と疑う

高校生の頃、首席合格した彼は、頭の良さが孤独に繋がるのを避けるために、新入生総代の挨拶を辞退していた。とはいえ人付き合いは得意でなく

そこへ然程親しくもない和音から声を掛けられる。彼女の言うことには、彼女は85の距離

の並行世界の和音で、そちらの世界では暦と恋人同士。こちらの暦は頼りないと

85の和音が元の世界に帰ったと思った彼は、こちらの和音に事の顛末を話す。しかし実はシフトが起きたのではなく、成績で暦に負け続けてる和音のイタズラだった。改めて暦は和音に告白するが振られる

それでも、一緒に勉強会をするうちに、仲間も広がり、二人は虚質科学研究者の道を進み、研究所に入所。和音が暦に言う「ちょっと頼みがあるんだけど、私と付き合ってくんない?」

二人は結婚し子どもが出来る。ある夜、広場に暴漢が現れ、息子が危うく殺されそうになる。その日以来、和音が片時も息子から離れなくなり、態度が頑なになる

研究室から緊急連絡があり、和音に法的に禁じられている私的なオプショナルシフト使用の疑いがかかる

暦が問い詰めると、その和音は息子を喪った世界線からシフトしたのだった。しかし、抱いてる息子は姿は同じでも息子ではない。諦めて元の世界に戻る別の和音

やがて、歳を取り、孫もでき余生を過ごす二人。和音がうたた寝しているとテーブルには自分宛ての手紙。別の世界線の和音と入れ替わってるうちに書かれた手紙だった。そこには時空の狭間に囚われた少女を救うために一生を研究に捧げた暦のことが書かれていて、最後に交差点での約束のことが記されていた

交差点で車椅子の暦は、動悸に襲われ薬を入れたケースを落としていた。そこに妙齢のご婦人が現れ助けられる。名前を聞こうとする暦に、「名乗るほどのものではございません」と微笑し「死ぬまでに一度言ってみたかったんです」それは栞の言葉だった


二つの作品が、似て非なる二つの世界線で展開されながら、互いに関係性をもち、ひとつの世界観を作る。互いの作品の中でラッシュ的に流れる、もう一つのあり得た世界を、別に描く。どちらを先に観るかでも捉え方が違って見えるが、どちらも人生に肯定的な作品だと言えるだろう